【知床ヒグマ事件はなぜ起きたのか】
- Kazuyoshi Nagashima
- 22 時間前
- 読了時間: 7分

自分が撮影したヒグマの動画が射殺されたヒグマの可能性が高かったようでFNNやANNで何度も使われています。
SNSでは100万ビュー以上を超えた動画もあり、結果として貴重な映像となりました。
DNA鑑定の結果、26歳の男性を襲った母熊と断定される一方、子熊のDNAとは一致せず体毛なども男性からは検出されなかったということです。
ヒグマに襲われた26歳の男性のご冥福を心からお祈りいたします。
他方、このヒグマは岩尾別の母と言われた熊らしく、それまではこのような事件を起こさず平穏に子熊と暮らしていたのに気の毒でなりません。
この画像のヒグマと鉢合わせした翌日に近くの川で魚釣りをしましたが、自分が食べるために小さな岩で囲んだ生け簀に魚を置いていました。
そのようなときに鉢合わせしていたらと思うとぞっとします。
50センチオーバーのマスが行けば必ず釣れるポイントで、また、20年ほど前には家族で釣りをして思い出深いポイントでもありました。
とても残念ですがもうここで釣りはできないと思います(近隣の河川同様、岩尾別川での釣り自体が禁止になる可能性もあります)。
今回の事件について、ヒグマがうようよいる場所に行く人間が悪いという指摘もあります。
しかし、羅臼岳は百名山にも選ばれ、かつ、事件のあった岩尾別ルートは初心者でも日帰りで登山できるという人気の山です。
今までは人喰い熊の事件など無い場所だったのです。
私は3年前に事件の起きた羅臼岳に登りました。
8月11日で、わずかに雪渓もありましたが最後の登頂部分はかなりハード。
下山する際には道迷いして2時間もロスしてしまい、その日、最後の下山者になってしまいました。
それでも、ヒグマに遭遇することは一度もなく、登山道のほとんどが見通しの効く場所。
クマよけの鈴をつけて注意をはらっていたものの、特段、ヒグマの心配をすることなく登山できました。
そのときは事前の情報として、ヒグマに遭遇する可能性は高いものの、「一度も登山者が襲われたことがない」という触れ込みとその事実に安心していたことも心の拠り所でした。
しかし、事件はなぜ起きてしまったのでしょうか?
ここからは自分の経験からの推測になります。
私が4日に羅臼岳の登山道近くの林道を通過したのは、岩尾別三段の湯という無料の露天風呂に入るためでした。
動画の記録を見ると、8月4日17時11分です。
私が向かうのは羅臼岳方面、しかし、ヒグマの進行方向は岩尾別川の下流方向です。
朝と夕方はヒグマは出没しやすいといいますが、まさに夕方で人通りの少ない時間帯でした(このときは羅臼岳登山口のホテル「地の涯」が改築のため閉館中だったこともあり、なおさら人がいませんでした)。
つまり、画像のヒグマは人通り(車通り)の少ない時間帯だからこそ、道の真ん中を闊歩して下流に向かって、魚を獲りに行ったのではないか。
そして、今回、マスの不漁がヒグマ事件の遠因と報道されています。
私が釣りをしたとき、この川はいつもであれば50オーバーのマスが連発しますが、今回は1匹は仕留めました。
ところが、いつもよりもあまり釣れず、とくにいつもならほぼ入れ食い状態のオショロコマ(北海道イワナ)があまり釣れない異変を感じました。
報道ステーションでは私が撮影したヒグマのうち、一頭の子熊の首まわりの白い輪っかの模様から事件の直前に撮影されたヒグマと同じだと推定していました。
ヒグマは魚があまり居ないために、羅臼岳の登山道付近をうろついていたのではないか(事件の現場から半径1~2キロほどのことなので可能性は十分あると思います)。
そして、被害の男性と鉢合わせして襲われたのだと思います。
私が遭遇したヒグマは真正面から自分の車に向かって、運転席のすぐ脇を親子3匹で通り抜けて行きました。
いくら鉄板に覆われた車の中とはいえ、過去に車を襲撃するヒグマの動画を視たことがありました。
おとなしくすり抜けて行くヒグマが豹変して運転席の窓をたたき割ってこないか冷や冷やしました。
このため、撮影はヒグマが車の横を通り過ぎる際はクマから目を離すことができないため中断して、クマを注意深く注視しました。
ヒグマは自分を一瞥することもなく過ぎ去ってゆきました。
つまり、一度もヒグマと目を合わせることはなかったということです。
いわば、ヒグマは人間をガン無視しているような感じでした。
そんな人間を一瞥もしないヒグマがなぜ、26歳の男性を襲ったのでしょうか。
私が羅臼岳を登った時は、8時に登山口を出発して下山届をだしたときは18時を過ぎていました。
登頂部の道迷いで2時間程度ロスしたとはいえ、往復で8時間はかかっています。
しかし、襲撃された男性は報道ベースでは登山口を5時に出発して、すでに登頂(山頂は1661メートル)したあと、標高550メートルのオホーツク展望台で11時10分ごろに事件が起きています。
オホーツク展望台から登山口までの下りは45分程度。
私が実質8時間かけて往復した登山道を、この男性は事実上7時間弱のペースで往復していたことになります。
これはかなり速いペースといえます。
羅臼岳は初心者向けともいいますが、実際そんなことはなく、はっきり言ってここの登山はかなりハードです。
事件にはたらればがつきものですが、下山時ではなく、体力がまだ温存されている登山時に遭遇していたら結果は違ったものになった可能性がなかったか。
しかし、疲れ切った状態で下山時に男性がトレイルラン、いわば競歩的に速足で駆け抜けていたところに、たまたま親ヒグマか、あるいは子熊に鉢合わせしてしまったのではないか。
何らかの形で鉢合わせ的に、ぶつかったか、ぶつかりそうになったのか。
今回の件はヒグマが男性を初めから食べようと襲ったとは考えにくいです。
偶発的に母熊が危険を察知して、ヒグマの凶暴化のスイッチが入ってしまったと考えるのが自然のような気がします。
なぜならば、エサとして人間を見て襲ったのであれば、子熊たちに分け与えていないとおかしいと考えるからです。
今回のDNA検証では、子熊たちからの体毛などは男性からみつかっていません。
母熊は人間を食べるということよりも、危害を加えて自分たちを襲わないように人間を仕留めること優先したのではないでしょうか。
ヒグマは人間の足を攻撃して動けなくするようにしてくるということです。
男性の下半身を中心に攻撃したとみられ、性別がわからないほどだったことからも今回の件ではヒグマからみれば子熊を守るための防衛本能からした攻撃ではないかと私は見立てています。
ヒグマが運転席の横を通った時に、エサをおねだりするような仕草もなく、堂々と闊歩していたので過度に腹を空かしているような感じを受けなかったことからもそのような印象を強めています。
また、今回の事件の遠因としては、魚の減少(北海道での異常気象、とくに高温が影響しているのかどうかわかりませんが)に加えて、車などからの餌やりがヒグマが人間を見て逃げなくなったこと。
さらに、人や車が頻繁に通る登山道や林道に平気で出没していることが間違いなく背景にあるはずです。
以前はクマが人間を避けていたのが避けないようになるどころか、近寄ってくるようになっています。
自分のケースでもヒグマが車を見かけたら逃げてもおかしくないところ、車に向かって堂々と真正面から向かってきています。
知床が世界自然遺産に登録されていることに加えてインバウンドで海外からのお客様も増えています。
現状のエサやりも自然公園法で30万円の罰金が課されますがどこまで海外からのお客様にまで周知徹底されているか。
米国では6万ドル(約882万円)の罰金刑を受けた女性の事案もあります。
ここまでとは言わなくても、罰金の額を100万円程度にして、周知と取り締まりの両方を北海道では強化すべきと考えます(餌やりがとんでもない事件の引き金になるのは北海道に限らずなので、クマが出る地域には普遍的な話です)。
このほか、事件の起きる1か月ほど前から、ヒグマが林道や登山道に出没していることが自分がSNSに上げたように、動画が回っていました。
それでも、人が襲われる事件が起きていなかったので、入山規制はなされませんでした。
しかし、今回の事件を通じて、それまで前例のなかったことが起きてしまいました。
知床で、しかも、登山道でヒグマが人を殺めたという前例ができてしまった以上、ヒグマの目撃情報が出たらすぐに入山禁止になる。
そのような可能性は十分あると受け止めています。
Comments